1. ブラジルとアメリカのJMC学生におけるAIに対する態度の比較分析:混合研究法アプローチ
Hyunjin Seo, Marcos Paulo da Silva, Blessing Jona, Azhar Iqbal, Kerstina Macy Burkett, Haseena U. Khan and Alfredo E. Urbina Carren
DOI:https://doi.org/10.1515/omgc-2024-0060
目的
本研究は、ブラジルとアメリカの大学生を対象に、AIに関する視点、態度、行動意図を調査した。ブラジルとアメリカを選定した理由は、それぞれラテンアメリカと北アメリカにおけるAI採用の先進国であるためだ。
方法論
本研究では、ブラジルとアメリカのジャーナリズムおよびマスコミュニケーション専攻の大学生を対象に、オンライン調査と対面インタビューを組み合わせた混合研究法アプローチを採用した。
研究結果
本研究の調査結果では、AIに対する親しみ、AIの効率性の認識、AIに関する懸念、AI自己効力感、AIについて学ぶ意欲、キャリアに対する楽観性といった点で、両国の学生間に類似点と相違点が確認された。例えば、AIへの親しみや効率性の認識が高い学生ほど、AI自己効力感が高いことが明らかになった。これらの大学生は、AIの潜在的な利点に対して楽観的である一方、その負の影響について懸念を示している。
社会的意義
世界中でメディアやその他の関連分野におけるAIの展開が急速に進んでいることを踏まえると、ジャーナリズムとマスコミュニケーションの教育課程を更新し、学生が将来のキャリアに向けてより良い準備ができるようにすることが重要である。その際、AIの採用と利用のレベルが異なる国々の現実と願望を反映させるために、世界中のジャーナリズムおよびマスコミュニケーションの教育プログラムにおける教員と学生の声を取り入れるべきである。
実践的意義
本研究は、教員がAIについてより良い教育を受け、教室でAIに関する深慮ある、的確で実質的な議論を導けるようにする必要性を強調している。ジャーナリズムとマスコミュニケーション教育協会(Association for Education in Journalism and Mass Communication)を含む学術団体は、このテーマに関するカリキュラムの開発や、教員間での学びの共有を促進するための情報提供やネットワーキングの拠点として機能することができる。
独創性/価値
メディアおよびコミュニケーション環境におけるAIの影響を考えると、将来のコミュニケーション専門家がAIをどのように理解し、認識しているかを把握することが重要であり、これが本研究のテーマである。私たちの比較分析は、特に高等教育の文脈において、国際コミュニケーションやコミュニケーション技術を研究または実践する人々にとって有益な示唆を提供した。
キーワード: ブラジル、アメリカ合衆国、AIに対する態度、高等教育、比較アプローチ
訳者:楊雨寒 杨雨寒
校閲者:曾煥濡 曾焕濡
2. 中国とアメリカ間のデジタル技術競争:技術とグローバリゼーションにおける中国の台頭に対するアメリカメディア報道の批判的メディア分析
謝婉瑩姜縄
DOI:https://doi.org/10.1515/omgc-2024-0039
目的
本研究は、グローバリゼーションが中国のデジタル技術に関するアメリカメディアの報道にどのような影響を与えるかを探求し、グローバルな動向や政治的、経済的、安全保障上の懸念に焦点を当てる。ギデンズ(Giddens)とロバートソン(Robertson)のグローバリゼーション理論を用いて、アメリカメディアが中国の技術的台頭をどのように枠付けし、それがアメリカの政策とどのように関連しているかを検討する。本研究は、デジタル時代におけるメディア、技術、グローバリゼーションに関する文献に貢献しする。
方法論
本研究では、2016年から2023年にかけて『ニューヨーク・タイムズ』と『ウォール・ストリート・ジャーナル』から収集した、中国関連のデジタル技術に関する報道2,106件を対象に、量的内容分析と批判的談話分析(CDA)の混合研究法を使用した。これらの報道機関が中国の技術的台頭を世界的な競争や安全保障の観点からどのように枠付けているかを分析するとともに、中国のデジタル技術に関するアメリカ政府の政策を探求した。
研究結果
本研究は、デジタル技術がグローバルな市場経済とどのように絡み合い、ネオリベラル的な実践が二重基準を生み出し、分極化を深め、競争を歪めているかを明らかにしている。また、デジタル技術がアメリカの国家安全保障、市場政策、技術開発を形成する上で果たす役割を強調している。さらに、アメリカのデジタルセクター内で高まる反グローバリゼーション感情と、中国の技術進歩に対するアメリカメディア報道における「テクノナショナリズム(技術的ナショナリズム)」の増加を指摘している。
社会的意義
本研究は、ネオリベラル的実践によって形作られたデジタル技術が、分極化を悪化させ、グローバル市場における競争を歪める仕組みを探求している。また、デジタル技術がアメリカの国家安全保障や技術開発に関する政策を形成する上で果たす役割を強調し、アメリカのセクター内で高まる反グローバリゼーション感情を指摘している。さらに、中国の技術的台頭に関するアメリカメディア報道において「テクノナショナリズム」の存在感が増していることを観察している。
実践的意義
本研究の結果は、政策立案者、企業、メディア関係者に対し、技術競争が地政学的および経済的に与える影響についての洞察を提供する。研究は、メディアの物語がデジタル時代における世論や意思決定にどのような影響を与えるかを明らかにしている。さらに、政策立案者、企業、メディアに向けた具体的な提言を提示している。
独創性/価値
本研究は、グローバリゼーション理論と技術拡散の枠組みを統合し、中国のデジタル技術に関するアメリカメディアの報道を分析している。この分析を通じて、メディアが中国の台頭を国家安全保障やグローバル競争という観点からどのように枠付けているかについての洞察を提供する。本研究は、メディア、技術、グローバルな勢力関係について、学者、アナリスト、政策立案者の理解を深めるものである。
キーワード: 中国のデジタル技術、グローバリゼーション、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、内容分析、批判的談話分析
訳者:楊雨寒杨雨寒
校閲者:曾煥濡 曾焕濡
3. 「ファーウェイのフレーミング:カナダ主流オンライン新聞における国内議論の標的から国際紛争の焦点へ」
鄧一恒(Yiheng Deng)、徐揚(Yang Xu)、パメラ・コッホ(Pamela Koch)
DOI:https://doi.org/10.1515/omgc-2024-0035
概要
本研究は、中国のIT企業であり、中国の対外直接投資(OFDI)の重要な担い手であるファーウェイに関するカナダの主流オンラインメディアの報道を調査し、メディアが政府や社会的・政治的エリートの立場にどのように従うか、または逸脱するかを明らかにすることを目的としています。
研究デザイン・方法論・アプローチ
2018年初頭から2019年3月までの期間における『The Globe and Mail』紙のファーウェイに関する記事を対象に、内容分析および談話分析を実施しました。また、記事内で紹介されたNanos社の世論調査データを用いて、世論も分析しました。
主な発見
その結果、孟晩舟(Meng Wanzhou)氏の逮捕以前に、ファーウェイは主に「国家安全保障上の脅威」または「価値あるパートナー」としてフレーミングされていました。逮捕後、ファーウェイは「中西間の対立の中心」として位置づけられるようになりました。『The Globe and Mail』は複数の情報源を取り上げようと試みましたが、中国および中国企業に関する長年のスキーマに固執し、これが世論に深い影響を与えました。ジャーナリストは報道の主要な情報源となり、重要な事件後には独自に行動しているように見受けられ、出来事主導の傾向を示しました。
実践的意義
本研究は、政治的文脈におけるメディア報道に内在するバイアスを読者が理解するのに役立ちます。ジャーナリストは、メディアの民主的な表象を維持しようとする努力がなされていても、同じスキーマを強化する可能性があるため、注意が必要です。
キーワード:カナダのオンラインメディア、ファーウェイ、フレーミング、カスケーディング・アクティベーション・モデル、インデキシング仮説、出来事主導モデル
訳者:貝毓蔚贝毓蔚
校閲者:楊雨寒杨雨寒
4.「我々はスケープゴートではない」:米国テキサス州上院法案第147号に対するコミュニティの反応の分析(Twitter〈現X〉上の言説を中心に)
戴澤慧(Zehui Dai)、姚説(Shuo Yao)
DOI:https://doi.org/10.1515/omgc-2024-0044
目的
米国テキサス州上院議員ロイス・コルクホースト(Lois Kolkhorst)により提案された上院法案第147号(SB147)は、テキサス州内での不動産購入に関し、北朝鮮、イラン、ロシア、中国の個人および法人に対する制限を提案するものである。本法案は2023年5月24日に州下院で否決されたものの、多様な利害関係者からの顕著な支持を受けていた。本研究は、2022年11月14日から2023年5月27日までの期間におけるTwitter(現X)上でのSB147に関する公開言説を分析することを目的とする。
研究デザイン・方法論・アプローチ
アクターネットワーク理論(ANT)およびスケープゴーティングの理論的枠組みを用いて、Twitter(現X)上のSB147に関する公開言説の社会ネットワーク分析および意味論的分析を実施した。
主な発見
SB147に対する公衆の反応を検討し、この立法提案の文脈において特定のアクターが不当に非難または標的とされている事例を特定した。
実践的意義
研究者および政策立案者がSB147を巡る言説の構造的構成を理解することは、世論および政策結果を形成する中心的なテーマや議論を明らかにする上で重要である。
社会的意義
本研究は、SB147のより広範な社会的および政治的影響、特にアジア系コミュニティに向けられたスケープゴーティングの実践を浮き彫りにしている。
キーワード
SB147、スケープゴーティング、アクターネットワーク理論(ANT)、アジア系コミュニティ、移民コミュニティ、Twitter(X)
訳者:貝毓蔚贝毓蔚
校閲者:楊雨寒 杨雨寒
5. SNSにおけるラ高級消費のアピール:中国人大学生によるアイデンティティ·社会的地位·特権の認識
Merisa Skulsuthavong* Ziyuan Wang 王子元
https://doi.org/10.1515/omgc-2024-0011
目的
本研究は、顕示的消費(conspicuous consumption)、文化資本(cultural capital)、印象操作(impression management)といった理論的枠組みに基づき、中国人大学生がSNS上での高級品消費の誇示をいかにアイデンティティ、社会的地位、特権の伝達手段として認識しているのかを明らかにすることを目的とする。
研究デザイン・方法論・アプローチ
本研究は混合研究法(ミックスド・メソッド)を採用し、329名の中国人大学生を対象としたオンライン調査を実施した。調査には自由記述式の質問も含まれており、定性的および定量的データの収集を可能とした。得られたデータに対して主題分析(テーマ分析)を行い、SNS上での高級品の誇示に対する参加者の認識に関する重要なパターンを明らかにした。
主な発見
参加者は、高級品の誇示を自己呈示(self-presentation)およびアイデンティティ構築のための戦略として認識していることが明らかになった。この実践は、特に「面子(メンツ/mianzi)」という社会的評価と尊敬を維持するという中国の文化的規範の影響を受けている。ある参加者は高級品の誇示を高い社会的地位や経済力の象徴と捉えている一方で、それをパフォーマティブ(演技的)な行為、または真の特権とは無関係なものとして批判する声もあった。
社会的意義
本研究は、SNSがアイデンティティや特権といった文化的ナラティブの形成に果たす役割を明らかにしており、とりわけ中国のような集団主義社会におけるその影響を浮き彫りにしている。また、デジタルプラットフォームが高級消費のパフォーマンスを媒介し、グローバルな潮流と地域的な文化動態の双方を反映していることを示している。
実践的意義
マーケティング担当者やSNS運用者は、本研究の知見を活用することで、中国人消費者の高級消費に対する動機に沿った文化的に適合した戦略を立案することができる。
独自性・学術的価値
本研究は、高級消費に関するグローバル理論と中国社会の独自の文化的構造を統合することで、学術的貢献を果たしている。また、SNSがデジタル空間においてアイデンティティ、地位、特権の交差点をいかに形成しているかを明らかにしている。
キーワード
中国、ソーシャルメディア、高級品、アイデンティティ、文化資本、顕示的消費
訳者:曾焕濡 曾煥濡
校閲者:贝毓蔚 貝毓蔚
6. センスメイキングにおけるコンテンツ拡散の解明:COVID-19初期段階におけるX上のWHOによるソーシャル・リスニング戦略
Sushma Kumble*, Pratiti Diddi、Steve Bien-Aimé
DOI:https://doi.org/10.1515/omgc-2024-0019
目的
本研究は、危機・緊急リスクコミュニケーションモデル(CERCモデル、Reynolds & Seeger, 2005)に基づき、X(元Twitter)上のユーザーによるセンスメイキングおよび効力感に基づくメッセージの拡散を分析することを目的とする。また、世界保健機関(WHO)がこれらの新たな会話に対してどのように対応したのかを明らかにすることも目的とする。
アプローチ
2020年1月から3月にかけて投稿された610万件のツイートを対象に、教師なし機械学習(unsupervised machine learning)を実施し、XユーザーによるCOVID-19に関するセンスメイキングの傾向を抽出した。加えて、WHOの公式Xアカウントによる投稿内容を内容分析(content analysis)し、同機関が浮上する主要な会話にどのように反応したかを明らかにした。
主な発見
2020年1月から3月にかけてのCOVID-19関連ツイートでは、ウイルスおよびそれが引き起こす危機の理解に関するトピックが大半を占めた。Xユーザーは、周囲の状況を理解し、日常を再構築しようとする中で、出来事のフレーミングを行っていた。内容分析の結果、WHOは効果的なソーシャル・リスニングを実施し、X上の主要な会話に迅速に対応することで、人々が状況を理解できるよう支援していたことが示された。
実践的意義
COVID-19パンデミックの初期段階は極度の不確実性を伴っていたが、WHOは堅実なコミュニケーション戦略を有し、その時期に広がった主要な議論に的確に対応した。これには、誤情報の打破(misinformation debunking)も含まれていた。
独自性・学術的価値
本研究は、健康危機という文脈において、ユーザー生成コンテンツにCERCモデルを適用した点において、既存研究のギャップを埋めるものである。特に、センスメイキングおよび効力感に焦点を当てながら、COVID-19パンデミック下の情報拡散を分析した点が新規性である。また、タイムラインをより細かな時間単位に分割することで、センスメイキングの変遷過程をより精緻に捉えている。
キーワード
CERCモデル、機械学習、ソーシャル・リスニング、ビッグデータ、COVID-19、ソーシャルメディア
訳者:曾焕濡 曾煥濡
校閲者:贝毓蔚 貝毓蔚
7. 英語圏外の注目翻訳研究:ロシアのテレビチャンネルとソーシャルメディアが担うメディア空間の変容
Lyudmila A. Kruglova、Galina G. Shchepilova
DOI:https://doi.org/10.1515/omgc-2025-0010
要旨
本稿では、ロシアの主要テレビチャンネル6局(Channel One、Russia 1、NTV、STS、TNT、Friday!)によるソーシャルメディア(VK、Odnoklassniki、Telegram、RuTube、YouTube)との連携、特にTelegramアカウントの運用状況について分析した結果を報告する。2022年は、パンデミック期を凌ぐ形で、ロシア国民のデジタル行動様式が大きく変容した年となった。ロシア人のオンライン利用時間の約3分の2は、ソーシャルネットワーク(21%)、動画視聴(18%)、メッセンジャー(15%)といった主要活動に費やされている。
研究者たちは、SNSとメッセンジャー間の利用時間の再配分は、単に一方が減少し他方が増加するというゼロサム的変化ではなく、プラットフォーム間の“溢れ出し”や新たな形式の普及が原因であると指摘している。特定のSNSがロシア国内でブロックされたことにより、ユーザーの移動が発生し、ソーシャルネットワーク機能をも兼ね備えたTelegramの成長を後押しした。Telegramの急成長は、混乱期におけるニュース情報源への合理的需要に起因している。多くのユーザーはTelegramフィードの閲覧に多くの時間を費やしており、この傾向は顕著である。
一方で、ソーシャルメディアの影響力が高まっているにもかかわらず、累積到達率においては依然として伝統的なテレビが主要なメディアである。2022年および2023年の無作為に抽出した4週間分のTelegram投稿をもとに、選定された6つのテレビチャンネルのデジタル・コンテンツ戦略の変化を分析した。チャンネルの選定は、年間平均視聴率とテーマ別分類に基づいている。形式的には、すべてのチャンネルが地上波第1・第2マルチプレックスに属する“公共アクセス可能”チャンネルと位置づけられている。
各週について、投稿数、コメント数、閲覧数、「いいね」数といった指標を分析し、ユーザーの投稿への関与度を示すエンゲージメント率(Engagement Rate)を算出した。さらに、全投稿データを対象に、人気の高い投稿とその提示形式も明らかにした。
本研究の具体的な目的は、(1)チャンネルのコンテンツ戦略の特定、(2)Telegram上におけるチャンネル活動の量的・質的記録、(3)ユーザーからの反応分析にある。その結果、混乱期には一方でニュースアジェンダへの高い需要が、他方で「娯楽」ではなく“気を紛らわせる”ような内容への関心も観察された。
テレビチャンネルは、数年前には十分に活用できなかった新たなソーシャルメディア空間で再構築を余儀なくされている。大手3局(Channel One、Russia 1、NTV)は、Telegram上でのコンテンツ戦略を模索しており、他のプラットフォームで使用されていた戦略を模倣する傾向が見られる中で、NTVが最も成功している。一方、Telegramの“ニュース的”特性は、若者向け娯楽チャンネル(TNT、STS、Friday!)により適合しており、これらのチャンネルは他のSNSで培われたインタラクティブな形式を巧みに応用し、既存コンテンツの再利用も行っている。
キーワード
ソーシャルメディア、テレビチャンネルのSNS運用、コンテンツ特性、ユーザー行動
訳者:曾焕濡 曾煥濡
校閲者:贝毓蔚貝毓蔚